空中都市マチュピチュ、15世紀から16世紀にかけて栄えたインカの都市です。
皆さんマチュピチュが花崗岩からできているのをご存知ですか?花崗岩とは火成岩の一種であり二酸化ケイ素の割合が多いマグマが地表深くで冷えて固まってできた岩石を言います。
花崗岩は、実は地球上でもっとも多く分布しているポピュラーな岩石なんです。もともとは地表深くで形成された花崗岩ですが、長年の地殻変動の中で隆起して地表に出ているものも多くあります。
建築物やお墓やモニュメントなど、実は皆様の身近に花崗岩は溢れているんです。そんな花崗岩について石の専門家である“なかの”が説明させていただきます。
目次
花崗岩ってどんな岩石?
こちらの写真は花崗岩を鏡面状に磨いたものになります。ちなみにこのサンプルは茨城県産の真壁小目石です。花崗岩の特徴は白と黒とグレーのごま塩模様で、白い部分が長石、黒が黒雲母、グレーが石英という鉱物になります。大まかに言うとこれらの鉱物の結晶がくっついて花崗岩を形成しています。
基本的に花崗岩は全体的にグレーの色のものが多いのですが、白みが強かったり赤っぽかったり黒が強かったりと色味に差があります。これは鉱物の種類や割合が違うためで、あとは環境がもたらす科学反応なども影響しているようです。例えばインド産のニューインペリアルレッドは赤みが強いですが、長石の部分がイオンの影響で赤く染まっているとのことです。
花崗岩と御影石の違いは?
よく石のことを御影石と呼びますが、花崗岩との違いは何なのでしょうか?実は花崗岩と御影石は同じ岩石の種類を指します。花崗岩=御影石です。ただちょっとややこしいのは黒い石を黒御影石と称することがありますが、この黒御影石は花崗岩ではなくて斑レイ岩という種類なのです。反対に一般的な花崗岩を白御影石なんて呼び方をすることもあります。
もともとは兵庫県神戸市の御影地区で取れていた花崗岩を御影石と呼び始めたのが語源です。それが時代を経る中で黒い斑レイ岩を黒御影石と呼ぶようになり現在に至ります。なので花崗岩と御影石の違いと言われても一言で言い表せないのですが、上記のような理由があることを覚えておいていただければと思います。
花崗岩と大理石との違いは?
花崗岩以外にもビルやマンションなどによく利用される建築資材に大理石があります。花崗岩と大理石との違いは何なのでしょうか?超大まかに違いをわけると。
花崗岩:マグマが冷えて固まった岩石
大理石:石灰岩が圧力や熱によって変性した石
ということで、根本的に成り立ちが違います。
よく観察しているとわかりますが、大理石は建物屋内で使用されているのに屋外ではあまり見かけません。それは石灰岩が変性したものだからで、石灰岩と同様に酸性雨で溶けてしまうからです。鍾乳洞は石灰岩からできていますが、長年の間に溶けてつららのような結晶ができあがっています。
大理石も同様に酸性雨で溶けてしまいます。ヨーロッパには大理石でつくられた建築物やモニュメントが多いのですが、黒く表面が汚れてしまっています。これは溶けた大理石が表面をつたって垂れているからこのような状態になります。
花崗岩はどうやって形成されたの?
花崗岩は、火成岩の一種で地表深くでマグマが冷えて固まった岩石です。マグマにも粘土の違いがありドロドロと濃いマグマになります。このドロドロマグマが地表近くで固まると流紋岩となり深くで固まると花崗岩になります。
マグマのドロドロ具合は二酸化ケイ素の割合により、二酸化ケイ素が多ければ多いほど基本的に粘度が増してドロドロになります。
岩石の分類を大まかに色でも表していて、左から白・緑・黒となっていますが、実際の岩石もこの色に近い感じになっています。花崗岩は白というよりはグレーのイメージですが。
花崗岩の科学的な性質について迫ってみよう!
花崗岩の硬さと比重
それでは花崗岩の科学的な性質にもう少し迫ってみたいと思います。皆さん花崗岩は硬いイメージで捉えていると思いますが、実際にどのくらい硬いのかともうしますと大理石と比較してかなり硬くなります。
硬さを表す指標に「モース硬度」というものがあるのですが、大理石は方解石から成っていて”3”になります。花崗岩は石英・長石・黒雲母から構成されますが、それぞれ7・6・2.5になります。黒雲母がこの中では柔らかいですが、花崗岩において黒雲母はそんなに割合を占めないので相当に硬いということになります。
花崗岩は硬いけど簡単に割れやすい?
だけど実際に花崗岩を扱っているとけっこう簡単に割れやすいんです。皆さんも硬いものを石に落として割ったり欠けてしまった経験はあるかもしれません。硬くて割れやすいんです。これは花崗岩に限らず岩石はその傾向が強いのですが、引張強度が弱いからです。引張強度とは簡単に説明すると弾性がないということで、下敷きをしならせるとビヨンビヨン波打ちますが、石はしならせようとするとポキンと折れてしまいます。また石の上に硬いものを落とすと簡単に欠けてしまったりします。これは引張強度が弱いために起こる現象です。
花崗岩の圧縮強度
花崗岩は引張強度が弱いのですが、圧縮強度はかなり強くなります。圧縮強度とは垂直方向に力を加えた時に耐えうる力。例えば花崗岩の上から圧力を加えていった時には相当な重量を支えることができるということです。世界中に分布している花崗岩の圧縮強度にはけっこうバラつきがありますが100~200N/mm2ぐらいになります。
ちなみにコンクリートの強度は21N/mm2で打設されることが多いですが、単純に5倍から10倍ほど花崗岩の方が圧縮強度が強くなります。
花崗岩の比重
花崗岩の比重はコンクリートと比較して少し重くなります。コンクリートが2.3程度なのに対して花崗岩は平均すると2.6ほどあります。
石屋さんは重い花崗岩を日常的に扱うので腰痛持ちが多いです。見た目で小さくても一片が30㎝のサイコロ状の石でも70Kg近くになります。うっかり持つとぎっくり腰になるので気をつけましょう。斑レイ岩などの黒御影石はさらに重くなります。
花崗岩は水を吸いやすいの?
花崗岩は地球上に広く分布している岩石ですが、その吸水率を一律で表すことができません。かなりの差があるからです。それは例えば同じ山の同じ石種でも採掘した場所や深さによってかなり変わります。webで調べると石種毎の吸水率の数字が載っていますが、参考程度に捉えるのがよろしいかと思います。
また、採掘する際にダイナマイトで発破をするとマイクロクラックが入りやすくそこから水が浸入しやすくなります。
花崗岩は火成岩だから耐火性がある?
花崗岩は火から成る石、つまりマグマが冷えて固まった火成岩に分類されます。なので熱に相当強そうなイメージがあるかと思います。だけど実際には熱に弱いのです。それは花崗岩を構成する鉱物である石英の性質によります。
石英はモース硬度が7もあり鉄よりも硬い鉱物ですが、その反面600℃ほどの温度で急激な膨張が起こり、弾け飛びます。
バーナーで炙ると細かい石が弾け飛んでいるのがわかりますでしょうか?このような形で一見熱にも動じなさそうな花崗岩ですが、炎で簡単に崩壊してしまいます。
実は、この熱に弱い石英の性質は、花崗岩を磨く際にも影響を与えます。
丁寧に磨かない花崗岩は劣化が早い!
花崗岩をピカピカの鏡面状に磨く場合、研磨版を用いて水を掛けながら丁寧に磨き上げることになります。研磨で磨くと摩擦によりどうしても石に熱が入ります。そうすると石英に影響を及ぼし色が濁ったり細かなクラックの原因になったりします。
花崗岩の研磨作業は、とても根気のいる作業になります。今では日本では自動研磨でゆっくりと磨くことが多くなってきました。それでも細かい部分などは手磨きに頼らざるを得ません。石材研磨は熱を加えれば早く仕上がりますが、同時に質も落ちます。現在、墓石などの石材製品は中国からの輸入が多いですが、ここで大きな差が出てきます。
中国の加工工場では、工場毎の品質管理に大きな差があり、ひどいところはかなりひどいようです。例えば日本であれば研磨盤を8回替えて目の粗いものから丁寧に磨きあげていくのに対し、半分の4回しか替えず、足りない艶をワックスやコーティングで補うことが多いです。
花崗岩は世界中の建築物に利用されている
花崗岩は世界中で様々な建築物に利用されています。花崗岩の大きな特徴は摩耗に強く風化に強いというというところです。ヨーロッパの石畳を見てもそうですが、イタリアではローマ時代につくられた石畳が未だに現役で利用されています。
こちらは茨城県産稲田石を外壁に利用した最高裁判所です。
稲田石の風合いが活きていて、風格ある外観になっています。
花崗岩は重くて割れやすいので、施工に神経を使います切ったり磨いたり何の加工をするにしても大変なんです。
だけど花崗岩のもたらす味わいは何にも代えがたいものがあるんですね。だから古今東西、世界中で利用されているんです。
お墓の主役は花崗岩
そしてお墓に使用される岩石の主役は花崗岩です。多く産出され品質も安定し、安山岩や斑レイ岩と比較して加工しやすい花崗岩は昔からよく利用されてきました。日本を代表する銘石、庵治石・大島石・真壁石・稲田石・万成石などなど、その多くは花崗岩に分類されます。
中国から輸入される墓石もG623を始めとして花崗岩が最も多くなります。花崗岩はポピュラーで親しみやすく、安価なものから高級なものまで価格のラインナップも広いです。
まとめ
花崗岩についてザーッとまとめてみました。もっと書こうと思えば延々と書いていられそうな気もしますが、文字数も多くなりましたので、この辺りにさせていただきます。後で追加するかもしれません。
花崗岩はマグマが冷えて固まった岩石であり、火から成る石=火成岩の一種です。二酸化ケイ素の割合が70%を超えるドロドロの粘度の溶岩が地表深くでゆっくりと冷えて固まりました。
花崗岩は、世界中で産出されるポピュラーな岩石で、建築物やお墓など様々な石材製品に利用されています。
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