墓石の文字は、彫り方を変えるだけで印象が大きく変わります。
まずは、こちらの写真をご覧ください。

3つとも同じ文字ですが、彫り方が違います。
左から、薬研彫り・さらい彫り・通常彫りです。
これは梵字(ぼんじ)の「ア」という文字。古代インドのサンスクリット語を表す文字の一つで、大日如来を表します。真言宗や天台宗のお墓に使われることがあります。
同じ「ア」なのに、ずいぶん見え方が違いますよね。
今回は、1級お墓ディレクターで元石屋の私が、墓石の文字彫刻の種類と、それぞれの仕上がりや価格の違いを紹介します。
- 墓石の文字彫刻は、通常のサンドブラストが基本。薬研彫りやサライ彫りなど、仕上げ方にも種類がある。
- 薬研彫りはV字の溝、サライ彫りは底を整えた仕上がり。浮かし彫りや二段彫りはデザイン性を出せる。
- 文字が大きく、深く、加工に手間がかかるほど価格は高くなる。通常彫りとの差が数万円になる場合もある。
墓石の文字はどうやって彫る?基本はサンドブラスト
お墓の文字彫刻というと、石工職人がノミと金づちを使って、一文字ずつ彫っている姿を想像する方もいるでしょう。
ところが、現在の墓石の字彫りは、ほとんどがサンドブラストです。
今は、9割9分9厘がサンドブラストで彫られています。
サンドブラストは、圧縮空気で研磨材を吹き付け、石の表面を削る加工方法です。
文字の形に切り抜いたゴムシートなどで石の表面を保護し、露出した部分に研磨材を当てて彫っていきます。
彫った部分は白っぽく、ザラザラした仕上がりになります。
サンドブラストなら加工が便利で、費用も抑えられます。そのため、わざわざ手間をかけて石工職人が文字を手彫りすることは、ほとんどなくなりました。
ただし、手彫りが完全になくなったわけではありません。
10年間で手彫りを見たのは一度だけ
私の知る限り、2017年までの約10年間で、墓石の文字を手彫りで刻んだのを見たのは、たった一度でした。
そのお客様は、石工職人による手づくりに非常にこだわる方でした。
そして依頼されたのが、**薬研彫り(やげんぼり)**です。
薬研彫りは、文字の溝をV字に刻む方法です。
このときは、職人がノミを使って仕上げました。
もっとも、薬研彫りは必ず手彫りというわけではありません。サンドブラストでもV字の溝をつくれます。
「薬研彫り」という仕上がりの形と、「手彫り」という加工方法は、分けて考える必要があります。
墓石の彫り方4種類|サライ・総サライ・薬研・通常彫り
まずは、もっとも基本的な4種類を比べてみましょう。

写真の「絆」という文字は、左から次の順番です。
サライ彫り
総サライ彫り
薬研彫り
サンドブラスト(通常彫り)
同じ書体、同じ文字でも、彫り方によって表情が違います。
サライ彫り(さらい彫り・サラエ彫り)
サライ彫りは、サンドブラストで文字を彫ったあと、ノミを使って底をさらい、深さをそろえる方法です。
文字の底が整い、きれいに見えるのが特徴です。
通常のサンドブラストでは、底に細かな凹凸が残ります。サライ彫りは、その部分を職人が整えます。
ノミで底をさらうことで、文字全体が白っぽく、はっきり見えるようになります。
洋型墓石など、文字にデザイン性を持たせたい場合に向いています。
総サライ彫り
サライ彫りをさらに丁寧に仕上げる方法が、総サライ彫りです。
通常のサライ彫りでは文字の底を整えますが、総サライ彫りでは文字の横の面までさらいます。
つまり、底だけでなく側面にもノミを入れるわけです。
そのぶん加工に手間がかかりますが、彫刻面がより整った仕上がりになります。
薬研彫り(ヤゲンぼり)
薬研彫りは、文字の溝をV字型に彫り込む方法です。
通常の彫刻とは、文字の断面形状が違います。
溝の左右が斜めになり、中央がもっとも深くなります。
五輪塔に刻む梵字などで、よく見られる彫り方です。
先ほど紹介した手づくりにこだわるお客様も、この薬研彫りを選ばれました。
普通の墓石に薬研彫りで文字が刻まれていたら、なかなか通っぽいですね。
サンドブラスト(通常彫り)
現在の墓石で、もっともよく見かける彫り方です。
文字の形に研磨材を吹き付け、石を削ります。
写真では分かりにくいのですが、彫った文字の底には、けっこう凹凸があります。深さにも多少の違いが出ます。
ところが、その凹凸が文字に陰影を生みます。
必ずしも、底が平らなほうがよいわけではありません。
サンドブラストの通常彫りにも、それなりの表情があるのです。
浮かし彫り・二段彫り・ツヤ消し彫りの違い
ここまでは、文字そのものを彫り込む加工を中心に紹介しました。
ほかにも、文字を浮き上がらせたり、輪郭を強調したりする彫り方があります。

写真の「夢」という文字は、左から次の3種類です。
浮かし彫り
二段彫り
ツヤ消し彫り
浮かし彫り
浮かし彫りは、文字の周囲をサンドブラストで彫り込み、文字そのものを浮き上がらせる方法です。
通常彫りとは、削る場所が反対になります。
文字を直接彫るのではなく、文字のまわりを彫ることで、文字が浮き上がって見えるように仕上げます。
二段彫り(デザイン彫り)
二段彫りは、文字の輪郭を先に筋彫りしてから、その内側をサンドブラストで彫る方法です。
輪郭がはっきりと出るため、文字に立体感やデザイン性が生まれます。
2017年当時、流行ってきた彫り方の一つでした。
洋型墓石など、文字のデザインを重視する場合に向いています。
なお、呼び方は石材店によって違います。「デザイン彫り」と呼ばれることもあります。
ツヤ消し彫り
ツヤ消し彫りは、サンドブラストで石の表面を軽く叩き、模様を付ける程度に加工する方法です。
深く彫り込むのではなく、磨いた石の表面にザラザラした部分をつくります。
写真では光が反射して、少し分かりにくいかもしれません。
文字彫刻よりも、お墓の床板に花などの模様を付けたり、滑り止めを兼ねたりする用途で使われます。
お墓に花やイラストを彫る方法については、別の記事で詳しく紹介しています。
あわせて読みたい:墓石に花のイラストを彫る|7つの彫刻方法とデザインの選び方
墓石の文字彫刻の種類を比較
ここまで紹介した7種類を整理します。
| 彫り方 | 加工の特徴 | 仕上がりの特徴 |
| 通常彫り | サンドブラストで文字を彫る | 底の凹凸による陰影が出る |
| サライ彫り | 彫った文字の底をノミで整える | 底が整い、白っぽくはっきり見える |
| 総サライ彫り | 底と側面をノミで整える | 彫刻面がより整う |
| 薬研彫り | 文字の溝をV字型にする | 伝統的で独特の陰影が出る |
| 浮かし彫り | 文字の周囲を削る | 文字が浮き上がって見える |
| 二段彫り | 輪郭を筋彫りして内側を彫る | 輪郭が強調される |
| ツヤ消し彫り | 表面を軽くサンドブラスト加工する | 石肌のツヤを消して模様を出す |
なお、彫り方の呼び方は、石材店によって違います。名前だけで決めず、見本や写真を見せてもらって確かめると安心です。
なお、楷書・行書・隷書などの「書体」は、文字の彫り方とは別の話です。
書体の選び方は、こちらの記事で紹介しています。
あわせて読みたい:墓石の書体一覧|楷書・行書・隷書の違いとフォントの選び方
墓石の文字彫刻の料金は、彫り方でどれくらい違う?
文字彫刻は、基本的に文字が大きく、深くなるほど価格が高くなります。
また、通常のサンドブラストよりも、薬研彫りやサライ彫りのほうが手間がかかるため、料金も高くなります。
さらに、二段彫りは輪郭を先に深く彫り、その内側も加工するので、いっそう手間がかかります。
通常彫りと特殊な彫り方の価格差
状況によっては、数万円の差になることもあります。
これは一律の追加料金ではありません。
文字の大きさや数、彫る深さ、加工方法などによって費用は変わります。
通常彫りを基準にすると、加工の手間が増える特殊な彫り方は、価格が高くなるという考え方です。
現在の料金は石材店ごとに異なるため、希望する彫り方を伝えたうえで、見積もりを取ってください。
あわせて読みたい:同業の石屋も惚れる!『良い石材店』3つのポイント
価格だけで決めないほうがよい理由
墓石の文字は、あとから簡単に彫り直せるものではありません。
いったん石を削れば、元の磨いた面には戻せないからです。
文字を変更するには、石の表面を削り直すなど、大がかりな再加工が必要になる場合もあります。
だからこそ、私は彫刻を決める段階で、納得できるものを選んでほしいと思います。
見積書の金額だけでなく、実際の彫刻見本や写真を見せてもらうのがおすすめです。
戒名・名前・家紋も彫り方を選べる?
墓石には、正面の文字以外にも、戒名や法名、俗名、家紋などが刻まれます。
あわせて読みたい:戒名についての5つの疑問【必ずつけないとならないの?文字を選ぶ基準・生前に授かる・自分でつける・家族と同じ】
これらも、基本となる加工方法はサンドブラストです。
ただし、彫刻する場所や文字の大きさ、既存の文字との統一などによって、適した仕上げ方は変わります。
戒名や名前の追加彫刻
戒名や法名、俗名などをあとから彫る場合は、すでに刻まれている文字とのバランスが大切です。
たとえば、墓誌に追加で名前を刻むなら、以前の文字と書体や彫り方をそろえたほうが、全体が自然に見えます。
あわせて読みたい:墓誌(霊標)とは?書き方・名前の順番と費用、必要かどうか
新しく建てるお墓の文字と、既存のお墓に追加する文字では、選び方も違ってきます。
あわせて読みたい:【価格のしくみ】墓石や墓誌に名前・戒名の『追加彫刻』をする費用は?実際の現場を見て検証します
あわせて読みたい:墓石や墓誌に名前・戒名を『追加彫刻』する時期は【49日・一周忌・初盆】のどれ?遅れたらどうする?
家紋の彫刻
家紋も墓石に彫刻できます。
ただし、家紋には似た形のものが多いため、彫り方を決める前に、正しい家紋を確認しておきたいところです。
家紋が分からない場合の調べ方は、別の記事にまとめています。
あわせて読みたい:家紋の調べ方|苗字で分かるのは候補まで。確実に見つける方法
よくある質問
- Q. 薬研彫りとは、どんな彫り方ですか?
-
文字の溝をV字型に彫り込む方法です。五輪塔の梵字などに見られ、伝統的な雰囲気があります。手彫りだけでなく、サンドブラストでも加工できます。
- Q. サライ彫りと通常彫りの違いは何ですか?
-
通常彫りはサンドブラストによる彫刻で、底に細かな凹凸が残ります。サライ彫りは、その底をノミで整えて深さをそろえます。側面まで整えるのが総サライ彫りです。
- Q. 墓石の文字は、今でも職人が手彫りしていますか?
-
手彫りもありますが、現在はサンドブラストが一般的です。私の知る限り、2017年までの約10年間に手彫りを見たのは一度だけでした。手づくりにこだわるお客様が依頼した薬研彫りでした。
- Q. 墓石の文字彫刻は、どの種類が安いですか?
-
基本となる通常のサンドブラスト彫りが、比較的安価です。薬研彫りやサライ彫り、二段彫りなどは、加工の手間が増えるため高くなります。
- Q. 墓石の文字はあとから彫り方を変えられますか?
-
簡単には変えられません。石を削っているため、元の状態には戻せないからです。大幅な変更には再加工が必要になる場合があります。注文前に彫刻見本を確認しておきましょう。
あわせて読みたい:墓石の文字と彫刻のまとめ|言葉・書体・彫り方・色・費用
あわせて読みたい:墓石に刻む言葉ランキング|人気の文字と英語の例、後悔しない選び方
あわせて読みたい:墓石の文字の色は、白・黒・金・染めないのどれがいい?剥がれた時の直し方まで
まとめ|墓石は文字の彫り方でも印象が変わる
墓石の文字彫刻には、通常のサンドブラストのほか、サライ彫り、総サライ彫り、薬研彫り、浮かし彫り、二段彫り、ツヤ消し彫りなどがあります。
通常彫りには自然な陰影があり、サライ彫りには整った美しさがあります。薬研彫りには伝統的な趣があり、二段彫りは文字の輪郭がはっきりします。
選ぶ文字や書体はもちろんですが、彫り方一つでも、お墓の印象はガラッと変わります。
今度お墓を見る機会があったら、ぜひ文字の彫り方にも目を向けてみてください。
元石屋のひとこと
りょういちたかが字彫り、されど字彫り。案外奥が深いんです。同じ文字でも彫り方によって表情が変わるので、写真を見比べるだけでも面白いですよ。
この記事の根拠
- 彫刻写真について(記事中の梵字「ア」、「絆」、「夢」の比較写真は、当時、字彫りの専門業者から許可を得て撮影させていただいたものです。)
- 墓石の書体・花の彫刻・家紋について(書体の違い、花などのイラスト彫刻、家紋の調べ方は、それぞれの関連記事で紹介しています。)








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