以前は、お墓と言えば代々続く家墓がスタンダードであり、専門職である石屋が扱うものでした。
それが、2000年頃には安価な中国産墓石が輸入されるようになり葬儀屋や仏壇屋などの異業種が参入しやすい下地ができます。
その後、2010年頃から終活ブームが広がり始め埋葬の多様化が進み、散骨業者・IT関係が参入、現在では鉄道会社・旅行会社まで本格的に参入するようになり混沌としてきています。
私は石屋です。なのでどうしても異業種が参入してくることに抵抗感がありますが、だけどこれは世の中の常で、どんなに栄えていた業種でも外的な要因によりゲームプレイヤーが変わる瞬間があります。
例えば、自動車業界を見るとエンジンからモーターに変わる変換期です。テスラのような新興勢力が急速に拡大を続ける一方で、トヨタなどの従来のエンジンを主力とした日本のメーカーはお家芸を封じられる形になり、変革を迫られています。
同じようにお墓市場も中国産墓石の輸入と終活ブームの広がりという2つの大きな変換点ががありました。
お墓は車の動力のように、エンジンなどの機構そのものが全く変わるというような根本的な変化はありませんが、それでも影響は大きいです。
今日は、それについて淡々と解説をしていこうと思います。
目次
お墓市場への異業種参入の歴史についての考察【2度の大きな転換点】
昔の典型的な石屋としてわかりやすい例としてわかりやすいのは、テレビドラマで放送された寺内貫太郎一家です。
東京下町で石屋を営んでいる寺内家、ドラマの中では石を加工している様子が伺えます。
1974年に放送されたドラマで、私が生まれる前ですが当時はまだまだこのような石屋が多かったようです。
だけどまさに寺内貫太郎一家が放送されている時期に、時を同じくして足元では市場が少しづつ変化をしていました。
当時を表す言葉として『一億総中流』というものがあります。
高度経済成長を続けている中で、皆そこそこ経済的な余裕がありました。
そんな中で、昭和40年代後半から50年代になると霊園ブームが押し寄せ、多くの人々がお墓を買い求めるようになったのです。
石材加工で栄える日本の石材産地
そうなると手加工でお墓を提供していては、増える需要に対して間に合いません。
なので多くの石材店が、国内の石材産地の加工卸業者に外注するようになり、販売を主とする小売店に様変わりしました。
私が住んでいる茨城県桜川市は、その石材産地の1つであり昔ながらの石の街です。
見渡す限り山や田園風景が広がるのどかな田舎なのですが、今から30年以上前の私が子供の頃は、田んぼ道をベンツが走り周っていました。
相当景気が良かったようで、小学校の先生が「日本一金持ちの自治体なんだよ」と言っていたのを今でも鮮明に覚えています。
中国産墓石の襲来と異業種参入
だけどそんな時代は長く続きませんでした。安価な人件費を背景に、中国産墓石が墓石市場を席捲するようになります。
世界の工場としてあらゆる製品づくりで世界をリードした中国ですが、墓石においても「安いうえに、どんな加工をしても価格が同じ」という理屈に合わない圧倒的な価格競争力を背景に市場を広げていきます。
例えば仕上げるのに3日掛かるような加工を施しても、そうでない場合と比較して値段が同じなので、日本では価格で太刀打ちできません。
中国産墓石は売れに売れました。グローバリゼーションの中で墓石業界の価格革命が起こったようなものです。
その結果、葬儀屋・仏壇屋といった異業種が参入するようになりました。
ブローカーも増えました。営業成績の良い墓石営業マンが、サラリーをもらうよりも自分で独立して商売をした方が儲かることに気づいたからです。
終活ブームの広がりと埋葬の多様化
だけど、その中国産墓石の隆盛も長くは続きませんでした。
2010年頃からの終活ブームの広がりと共に、埋葬の多様化が進み、永代供養墓・合祀墓・樹木葬・散骨・手元供養などの選択肢が広がり、売上は下降線を辿ることになります。
それと同時に葬儀屋や仏壇屋というような供養産業だけでなく、IT業界や旅行会社、鉄道会社など様々な業種が参入するようになりました。
終活という概念が広がった背景には、日本が多死社会に向かっていること、また少子高齢化や核家族化の影響が大きいです。
さらにバブル以降、日本経済が元気がない中で、高齢者層が比較的裕福であることもビジネスチャンスを求める企業を惹きつけることになりました。
そして個人的には何よりもインターネットの普及の影響が大きいと感じています。
私がいつも思うのは、世の中がドンドン複雑になってきているということです。
日本人が1日に受け取る情報量は、江戸時代の1年分、平安時代の一生分にもなるそうです。
大きな原因はインターネットです。
大量の情報がインターネットを通じて何時でもリアルタイムで得られるようになりました。だけど便利になった反面、現代人は情報過多で振り回されています。
スマートフォンを皆が持ちいつでも情報に触れられるようになったので尚更ですね。
まとめ:2度の大きな転換点があったお墓市場への異業種参入の歴史
ざーっと、お墓市場に異業種が参入してきた歴史について流れを追って紹介してきました。
一度目の転換点は、安価な中国産墓石が輸入されるようになったこと。
ここでお墓といえば石材店が扱っていたものが葬儀屋・仏壇屋を含めた供養業界に広がりました。
そして、二度目の転換点は、終活ブームの広がりと埋葬の多様化です。
ここで更に供養業界外の異業種が積極的に参入するようになりました。
さらに現在に至るとコロナウイルスの影響が色濃く出始めています。
葬儀屋がもろに影響を受けて経営が厳しくなる中で、お墓市場に関心を高め、実際に樹木葬などを中心としてシェアを広げています。
前途多難な石材業界ではありますが、お墓自体が無くなるわけではなく、地域に必要な存在であります。
だけど世の中が複雑になる中で、より知恵を絞っていかなければならないことだけは確かなようです。
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