墓誌(霊標)は、実は、比較的最近になって増えてきたものです。
お墓を建てるときに「墓誌も建てますか?」と聞かれて、迷った方も多いのではないでしょうか。
この記事では、墓誌に刻む内容、順番、必要かどうか、価格の考え方までお話しします。
お墓は地域ごとに違い、墓誌も違います。1級お墓ディレクターで石材業界に約25年携わってきた私が、茨城の現場の経験と、いろいろな地域の石屋さんと情報交換して聞いた話をもとに、元石屋として気づいたことも交えて書きます。
墓誌には、戒名(法名)・命日・行年・俗名を、亡くなった順か、家系図の順で刻みます。
墓誌は、必ずしも必要ではありません。お石塔に刻む場所が足りなくなったから、増えてきたものです。
価格は、石の種類・大きさ・形で決まるため、相場は一つに言えません。名前を追加するときは、1名ごとの字彫りの費用がかかります。

墓誌(霊標)とは:亡くなった家族の戒名や命日を刻む「家族の年表」
墓誌(霊標)は、お墓に埋葬されている方の戒名や俗名などを記した石板です。
簡単に言うと、「家族の年表」です。亡くなった家族の情報を、記録していく役割を果たします。
昔は、お石塔に直接刻まれていましたが、墓誌にまとめて書かれることが多くなっています。
一般的に、墓誌はお墓の見えやすい場所にあります。お墓参りのときに目に入り、ご先祖様を思い出して、お祈りを捧げるのです。
生きているうちに戒名をもらう方もいて、その場合は、生前でも墓誌に戒名や名前を刻む方もいらっしゃいます。一言でいうと、見やすくてわかりやすい。
墓誌は、地方によって呼び方が変わり、霊標とも呼ばれます。

墓誌に刻むのは、戒名・命日・行年・俗名の4つ
- 戒名(浄土真宗では法名)
- 命日
- 行年(亡くなったときの年齢)
- 俗名(生前のお名前)
その他、経歴や受賞歴などの情報を刻まれる方もいらっしゃいます。
行年(享年)は、伝統的には数え年。近年は満年齢で刻む例も増えています
行年(享年)は、亡くなったときの年齢です。伝統的には、数え年で刻みます。
数え年は、生まれた年を1歳とし、毎年1月1日に全員が1つ年を重ねる数え方です。
日蓮宗の寺院は、「本来は、行年も享年も同じ意味で、数え年のことでした」と説明しています。江戸時代以前の寺院の過去帳は、すべて数え年だったそうです。
一方で、近年は満年齢で刻む例も増えていて、決まりは一つではありません。
迷ったときは、同じお墓にすでに刻まれているご先祖様の表記にそろえるのが基本です。数え年と満年齢を混ぜるのは、あまり好ましくありません。判断に迷うときは、菩提寺の住職に聞いてください。
刻む順番は、亡くなった順か、家系図の順(茨城ではどちらもある)
墓誌に戒名や名前を刻む順番は、2通りあります。
- 亡くなった順に、そのまま刻んでいく
- 夫・妻・子供と、家系図のように、右から順に並べる

茨城では、けっこうバラバラで、どちらもあります。
個人的には、家系図のように並んでいると、目で見てすぐにわかるので、後世のためにもいいような気がしています。
ただ、そうすると、奥さんが先に亡くなったとき、夫の戒名を彫るスペースを空けておかなければなりません。そこだけは、間違えないようにしなければなりません。
戒名や俗名が残っているご先祖様は、できるだけ全員刻んでほしい
どこまで遡って刻めばいいのか、という話ですが、個人的には、戒名や俗名が残っているご先祖様は、すべて刻んでもらいたいです。
墓誌は裏面にも刻めます。なるべく、自分のルーツであるご先祖様の記録を、残してあげてほしい。
その上で、費用を掛けたくないという方は、省略することもできます。
墓誌に名前を刻むときは、1名あたりいくら、という考え方をする石材店が多いです。
墓誌が増えたのは、お石塔に刻む場所が足りなくなったから
江戸〜明治は、個人墓や夫婦墓が中心だった
江戸時代や明治の初期頃までは、個人や夫婦で、1つのお石塔を建てていました。今でも墓相型のお墓では、夫婦で1つのお墓を建てています。
ただ、個人や夫婦単位のお墓は、墓地の面積が広くないと建てられません。お石塔の数が増えると、墓地に収まりきらなくなり、先祖代々をひとまとめにしたお石塔を建てるようになりました。

先祖代々のお石塔は、幅が狭く、刻む場所が足りなくなる
今も主流なのが、1つのお石塔で先祖代々をひとまとめにしたお墓です。土地の少ない都市部でも、多くの墓地を確保できる、合理的な形です。
この場合、ご先祖様の戒名や俗名は、お石塔の左右に刻みます。
ただ、お石塔の幅は、和型墓石だと8寸〜11寸ほどで、27〜33cmしかありません。ご先祖様が増えると、刻む場所がなくなってきます。

墓誌であれば、ご先祖様の情報を刻むスペースを、広く取れます。
墓誌には、魂入れ・魂抜きをしません
お石塔に文字を刻むときは、「魂抜き」と「魂入れ」という儀式をします。お坊さんにお墓に来ていただいて、お経を読んでいただきます。
墓誌は、魂入れをしません。ですから、お坊さんに、魂抜きや魂入れをお願いすることもありません。
こうした背景があって、墓誌が増えてきました。
墓誌の石は、石塔と同じ石か、文字が目立つ黒御影石
墓誌に使う石は、石塔と同じ石を使うか、刻んだ文字が目立つ黒御影石を使うことが多いです(茨城県と関東近郊)。
黒御影石の墓誌は、戒名や俗名を刻んだ部分が、白っぽく見えます。黒御影石に白ペンキを入れると、黒と白のコントラストがはっきりして、字彫りがくっきり見えます。
白御影石(真壁小目石)は、戒名や俗名を刻んだだけでは、よく見えません。そのため、黒か白のペンキを入れるのが一般的です。


浄土真宗では、墓誌ではなく「法名碑」
ここまで「墓誌、墓誌」と連呼してきましたが、私は浄土真宗の門徒なので、自分のお墓にあるのは「法名碑」です。
浄土真宗では、戒名ではなく、法名をつけていただきます。つまり、法名を刻む碑なので、「法名碑」です。
浄土真宗本願寺派(西本願寺)の公式の案内でも、「霊標」ではなく「法名碑」と称するとされています。
本来は「法名碑」と呼ぶべきなのですが、いつも「墓誌」で統一してしまっていますね。「霊標」と呼ぶ地域もあるようなので、地域性があるのだと思います。

墓誌の価格は、石・大きさ・形で決まる:相場は一つに言えない
墓誌の価格は、使う石と、大きさと、形によって決まります。単純に、いくらぐらいという相場を言うことはできません。
国産石種や黒御影石は、費用が高い傾向にあります。中国産石種の白御影石は、安価になります。
基本的に、墓誌は、石塔に合わせるか、黒御影石を使うかの選択が多いです。違う石種を使っても、もちろん問題ありません。
具体的な金額を言えないのは、石・大きさ・形・地域で、差が大きいからです。検討している石材店に聞いてみるのが、いちばん確かです。
追加で名前を刻む費用は、1名ごと。石材店で1万8千円〜8万円の差があった
ご家族が亡くなったら、追加の字彫りが必要です(地域によっては、刻まないところもあるようです)。
墓誌に、現場で文字を刻むか、持ち帰って彫ります。
追加彫刻の価格は、地域や石材店ごとの施工方法で差があり、1万8千円〜8万円もの違いがありました。
これは、以前、全国の石材店の方々に聞いてまとめた金額です。当時のものなので、今はもっと上がっているかもしれません。詳しくは、この記事の最後でご紹介する、以前の記事をご覧ください。
墓誌は必ずしも必要ではない:刻む名前が少ないなら、お石塔に刻めばいい
たとえば、跡継ぎがいない、代が続かない、嫁いだ娘にお墓を守ってもらうことになっている、という場合は、名前や戒名を刻む数が限られます。その場合は、墓誌を建てず、お石塔に刻む選択でも構いません。
特に洋型墓石は、横に広いので、ある程度のご先祖様の情報を刻めるスペースがあります。
正直に言うと、墓誌は、石材店にとって売上になる面があります。墓誌の本体と、名前を追加するたびの、1名ごとの字彫りの費用がかかるからです。
ただ、昔のように、一人ひとりのお石塔をその都度建てることを考えれば、だいぶ安くなったとも捉えられます。
墓誌は後から追加できる:迷ったら、お石塔に彫れるだけ彫ってからでもいい
墓誌は、建てるスペースが墓地にあれば、あとからでも追加できます。お石塔に彫れるだけ彫ってから、墓誌を追加する選択もあります。
生前にお墓を建てる寿陵(じゅりょう)では、まだ亡くなった方がいないので、墓誌を建てるか悩むところです。寿陵を建てるなら、戒名も生前にもらって、墓誌に刻んでおくのも一つの案です。
古いお石塔の戒名や俗名が消えてきたら、墓誌に刻み直す
最近のお墓に使われる御影石は、硬質で風化に強く、文字を刻んでも、そうそう風化しません。
ただ、加工技術が発達していなかった頃の石塔は、表面がボロボロになり、戒名や俗名が消えてきているものもあります。
そんなご先祖様の記録を大切に残したい場合は、新たに墓誌を設けて、記録を刻み直すのもいいでしょう。
子孫繁栄を願って建てる墓誌:茨城のよくあるサイズで、表に16名、裏を使えば32名
墓誌には、ご先祖様の情報をたくさん刻めます。茨城でよくある墓誌のサイズは、60cm×75cm×6cmで、一面に16名ほど刻めます。
裏返して彫ることもできるので、全部で32名です。※墓誌のサイズは、全国で違いがあります。
それだけの余裕があるので、子孫が代々続いても、十分に入ります。
名入れは、四十九日の納骨までが理想。遅れても、初盆や一周忌で問題ない
追加の字彫りは、四十九日の納骨までにできるのがベストです。ただ、忙しかったり、忘れてしまったりして、遅れる場合もあります。
その場合は、初盆や一周忌でも問題ありません。
あわせて読みたい:墓石や墓誌に名前・戒名を『追加彫刻』する時期は【49日・一周忌・初盆】のどれ?遅れたらどうする?
墓誌の形はさまざま:独立型、差し込み型、外柵に組み込む省スペース型
墓誌には、さまざまな形があります。独立で、下駄を履かせたタイプや、凹んだ部分に差し込むタイプ。
狭い墓地では、墓誌を外柵に組み込んで、省スペースにすることもあります。納骨堂の前蓋に、戒名や俗名を刻むこともあります。

墓誌についてよくある質問
- 墓誌は、建てないといけませんか?
-
必ずしも必要ではありません。名前を刻む数が限られるなら、お石塔に刻む選択もあります。墓誌は、あとから追加することもできます。
- 行年(享年)は、数え年と満年齢のどちらで刻みますか?
-
伝統的には数え年ですが、近年は満年齢で刻む例も増えていて、決まりは一つではありません。同じお墓にすでに刻まれているご先祖様の表記にそろえ、迷うときは菩提寺に聞いてください。
- 墓誌にも、魂入れはしますか?
-
しません。魂抜きと魂入れをお願いするのは、お石塔に文字を刻むときです。墓誌は、お坊さんにお願いすることはありません。
- 浄土真宗の墓誌は、どう呼びますか?
-
「法名碑」と呼びます。浄土真宗本願寺派(西本願寺)の公式の案内でも、「霊標」ではなく「法名碑」と称するとされています。
元石屋のひとこと:墓誌は、ご先祖様の名前を残す現代の知恵
りょういち墓誌は、刻む場所が足りなくなったときの、現代の知恵です。もし墓誌があるなら、一度ゆっくり、ご先祖様の名前を見てみてください。
この記事のまとめ
- 墓誌には、戒名(法名)・命日・行年・俗名を、亡くなった順か、家系図の順で刻む
- 行年(享年)は伝統的には数え年。近年は満年齢も増えているので、同じお墓の表記にそろえる
- 墓誌は必ずしも必要ではない。お石塔に刻む場所が足りなくなったから増えた
- 墓誌には魂入れ・魂抜きをしない。浄土真宗では「法名碑」と呼ぶ
- 価格は石・大きさ・形で決まる。名前の追加は1名ごとの字彫り費用がかかる
墓誌は、亡くなった家族の歴史年表のようなものです。もしあなたのお墓に墓誌があるなら、ゆっくりと戒名や名前を見て、自分のルーツであるご先祖様に、想いを馳せてみてください。
この記事は、皆さんからいただいたご意見も反映して、書き換えていきます。
この記事の根拠:25年の現場経験と、お寺の公式の案内
- 1級お墓ディレクターとして、石材業界で約25年お墓に携わってきた経験(茨城を中心とした現場)
- 浄土真宗では「霊標」ではなく「法名碑」と呼ぶ:浄土真宗本願寺派「よくある質問」。真宗大谷派は、墓碑の正面に「南無阿弥陀仏」または「俱会一処」を記すと案内しています(真宗大谷派「葬儀・法事・お墓のこと」)
- 行年(享年)が数え年であること、数え年と満年齢を混ぜないこと:日蓮宗の寺院「仏事のハテナ?満年齢(丸年)と数え年」
- 近年は満年齢で刻む例も増えていること:終活情報サイトの解説(決まりは一つではなく、同じお墓の表記や菩提寺に合わせるとされています)
- 追加彫刻の費用:以前、全国の石材店の方々にうかがってまとめた金額(当時のもの)









コメント
コメント一覧 (1件)
[…] あわせて読みたい墓誌(霊標)の書き方と順番:刻む内容・価格・必要かどうか […]